『いちばんすきな花』将棋とロールキャベツ…美鳥が結ぶ椿と夜々のつながり

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生きていくということは、出会った人からもらったかけらを一つずつ胸に抱いていくことなのかもしれない。

『いちばんすきな花』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)第8話は、ずっと謎の存在だった志木美鳥(田中麗奈)の半生が、春木椿(松下洸平)と深雪夜々(今田美桜)の視点から描かれた。

椿と美鳥が同じ家を買ったのは偶然なんかじゃなかった



年齢も性別も過ごしてきた環境も違う潮ゆくえ(多部未華子)、椿、夜々、佐藤紅葉(神尾楓珠)。でも実は、別々の場所で生きていた4人は本人たちも知らないつながりで結ばれていた。

小さい頃から女の子らしい遊びばかりを強要されてきた夜々。母の目を盗んで覚えた遊びが将棋であり、それを教えてくれたのが従姉の美鳥であることは前回までで語られていた。

けれど、その美鳥に将棋を教えたのが、椿だなんて思いつきもしなかった。いつも怪我ばかりしていた中学時代の美鳥。同級生たちがささやく、また誰かと喧嘩したという噂。怖いから、近づかない方がいい。好奇の目を注ぎつつ、誰も怪我の本当の理由に踏み込もうとなんてしなかった。

そんな孤独な美鳥にとって、椿の家が唯一の居場所だった。この頃から、椿は誰かの居場所をつくる天才らしい。何も話したがらない美鳥とのコミュニケーションの方法が、将棋。駒の配置も、指し方も、全部椿から美鳥に教えたものだった。

「相手と向き合うように置く」

椿からもらった言葉も、そのまま夜々へと受け継がれていく。椿から美鳥へ。美鳥から夜々へ。バトンを渡すように。鳥が花粉を運ぶように。本人たちも知らない間に大切なものが伝わっていく。

将棋だけじゃない。夜々の家に遊びに来た美鳥が振る舞ったロールキャベツ。あれは、中学生の頃、椿の家に通っていた美鳥が、椿の母・鈴子(美保純)から教わったものだった。美鳥の味は、鈴子仕込み。6話で、鈴子がつくった煮物をつまみ食いして、夜々が「懐かしい」とつぶやいたのも、美鳥の味を覚えていたから。鈴子から美鳥へ。美鳥から夜々へ。ささやかな奇跡の連鎖だ。

そもそも椿と美鳥が同じ家を購入していたという出来すぎた偶然も、決して偶然ではなかった。椿があの一軒家を購入したのは、外観が決め手だと言っていた。なぜ椿はあの大きな赤い三角屋根の家を気に入ったのか。そのルーツは、中学生の頃、美鳥が描いた絵にあった。

決して家庭が安らぎの場所ではなかったであろう美鳥が、「自分の家がほしい」と描いた理想の我が家。誰にも脅かされず、心穏やかに過ごせる場所。きっと美鳥は、あるとき、あの家を見かけて、ずっと思い描いていた幸せの場所がそのまま現れたような気がしたんだろう。だから、あの家に住みたいと思った。椿も同じで、ずっと深層心理に美鳥の描いた絵があったから、あの家を買った。何も偶然なんかじゃない。

僕たちも、自分たちが気づいていないだけで、本当は目に見えないつながりがあるのかもしれない。やたらと気の合う相手と出会ったとき、簡単にフィーリングなんて言葉で片づけてしまうけれど、本当は相手と自分の間に共通の知り合いがいて、その人のかけらをお互いが持っているから、不思議な共鳴を覚えるのかもしれない。ちょっとお伽噺じみているけれど、そう考えたら、世界がもう少しだけ美しく見える。柄にもないポジティブをちょっと信じてみたくなる。

となると、ゆくえや紅葉にも美鳥からもらったかけらがあって、それがどこかでつながり合うこともあるのかもしれない。まだ紅葉だけが美鳥とちゃんと再会していない。他の3人と比べて、紅葉だけが少し意味深なものを美鳥に抱いているようにも見える。美鳥との再会は、紅葉に何を運んでくるのだろうか。

大人の再会は、人生の答え合わせなのかもしれない



それにしても、大人の再会ってなんだかうれしい。大人になると、相手がただ元気に生きているだけで心が温かくなる。誰の人生にだって、投げ出したいことや逃げ出したいことがいっぱいあることを、年をとればとるほどわかってくる。だからこそ、辛いことがあっても、苦しいことがあっても、その人が大切なものを自ら断つことなく、今日まで生きてくれた事実だけで、涙が出るくらいありがたい気持ちになる。

「怪我、もうしてない?」

椿のあの言葉は、精一杯の優しさだ。中学時代の椿はまだ幼すぎて、美鳥の家で人に言えないことが起きていることを察しながら、どうすることもできなかった。もしかしたら小さな後悔や罪悪感として、ずっと椿の胸に残っていたのかもしれない。だから、つい椿は誰かのために何でもしたくなる人になったのかもしれない。あの頃、美鳥にできなかったことをするために。

でも、美鳥は自分の力で生き抜いた。ちゃんと大人になった。もう無力な子どもなんかじゃない。自分で、自分を幸せにしてあげられる大人になった。それが、椿にとっては何よりの救いだった。心の底からよかったと思うとき、人は「よかった」しか言えない。椿のあの「よかった」は、そんな万感の思いがこもった「よかった」だった。

答え合わせという言葉が前回からキーワードとして登場しているけど、大人の再会もまた答え合わせなんだろう。今までいろんなことがあったけど、いろんな失敗や間違いも重ねたけど、今こうして生きている自分たちは間違いなんかじゃない。そう確かめ合いたくて、大人は昔馴染みと再会したくなる。

「こうやって昔の友達に会って回ったり。あと、こういう家、自分で買ったり。そういうの、ひとりでできるようになった」

ずっと2人組になれない孤独をこのドラマは描いてきたけれど、美鳥を通じて感じるのは、自分の足で立つ強さだ。苗字が一度変わっているということは、かつて美鳥は結婚したのだろうし、元の苗字に戻ったということは、つまり離婚したのだろう。美鳥もまた2人組になれなかったひとりなのかもしれない。

でも、家を買って、学習塾を開いて、きっと美鳥はあの頃の自分のような子どもたちのための居場所をつくってあげることができた。大人になっても、やっぱり実家に居場所は感じられなくて、でも親を捨てることはできなくて、家族というものを信じることはできていないのかもしれないけれど、でも少なくともちゃんと自分のことは信じられているようにも見えた。

それでいいんだと思う。いろんなことがあったけど、自分の人生を自分の力で生きてきた。そう思えたら、ひとりでも、2人組でも、なんだっていいんじゃないかな。そんなことが、その人の人生の価値を決めるとはとても思えない。

美鳥の登場で、少し風向きが変わりつつ、だけど、最終的にこのドラマがどういうことを描きたいのか、どこを目指しているのかは、まだちょっと漠然としている。おそらく終着点を占うのは、望月希子(白鳥玉季)と穂積朔也(黒川想矢)なんだろう。4人がしんどかった10代の季節を今まさに生きている2人。満月の姓を冠する希子と、新月の名を持つ朔也。地球を挟んで対称の位置にいる2人が、2人組をめぐる物語にどんなエンディングをもたらすのか注目したい。

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