自分は夢を追いかけているつもりでも、社会はそれを一人前とは認めない。何か成し遂げないと“その他大勢”のひとりとなって、「え？ 芸人やってるの？」と好奇の目に晒される。たとえ、才能があったとしても、だ。当たり前だ。全員が成功するわけではない夢の世界なのだから。
「俺は芸人なのか」若林の苦悩
4月23日に放送された『だが、情熱はある』（日本テレビ系、毎週日曜22:30～）第3話。大学生ながら芸人となった若林正恭（King & Prince・高橋海人）と山里亮太（SixTONES・森本慎太郎）は、もがき苦しんでいた。
若林は春日俊彰（戸塚純貴）と「ナイスミドル（のちのオードリー）」を結成し、月に2回、クレープ屋の端に作られた無料ステージに立っていた。いつも客は2人。舞台に立ったあとは、牛丼屋で腹ごしらえして、プールに行って、公園でキャッチボールするのがお決まりのコースだ。
就職する気のない息子に対し、父親の徳義（光石研）は「遊んでいるのに『仕事してる』なんて、社会から逃げんなよ」と苦言を呈す。説教はやがて親子喧嘩に発展し、若林は「出て行ってやるよ！」と家を飛び出す……が、アルバイトすらしていないお笑い芸人に、家を貸してくれるところなんてどこにもない。数時間後には実家に戻っていた。
若林は、いつも漫才を見に来てくれる若い女性2人に、自分が変なのか、他人が変なのかをステージ上で問いかける。
俺は芸人なのか、いったい何者なのか――。元来、考えすぎる性格の若林は葛藤する。
そんな彼にとって、春日の存在は大きかったように思う。想いをぶつけてくる若林に対し、春日はしっかり受け止めるわけではなく、でもその言葉を捨てるわけでもなく、拾い集めていく。彼がいたからこそ、若林は若林のままでいられた。芸人としても活動できるようになった。
「とにかく結果を出す」山里の嫉妬
一方、山里は大阪のNSC（吉本興業の養成所）に入所。宮崎（九条ジョー）と「侍パンチ」を結成したものの、初ネタ見せで玉砕。同期の「ヘッドリミット」は、養成所生ながらスター街道を歩み始め、ファンも獲得していた。
ヘッドリミットへの妬みや、自分自身の結果が出ないこともあって、宮崎に厳しく当たる山里。「なんでやねん」の練習を何百回とさせるようなスパルタ教育で彼を追い込んだ結果、解散を告げられてしまった。
その後、講師の勧めもあって、和男（清水尋也）と「足軽エンペラー」を結成。NSCの卒業公演では、最長の5分ネタをやらせてもらうグループに入った。ヘッドリミットがMCをしていることは気に食わなかったが……。
山里は、卒業公演を観に来ていた父親・勤（三宅弘城）からあるものを渡される。それは、取引先の会社のパンフレットだった。まるで、両親から「大学を卒業したら就職するんだよな？」という無言の圧をかけられているようだった。
私たちは、現在の若林と山里の活躍を知っているから安心して見ているが、当時のふたりにとって、芸人の仕事はゴールのない霧の中を走り続けているようなもの。“芸人になれた”という喜びと、ステージに立っているプライドはあるものの、この仕事は「結果」がすべて。現実を見ている親は就職を勧めてくるし、誰も彼らを認めてはくれない。そりゃ苦しむはずだ。
物語の説得力を高める高橋と森本の“目”
同じ芸人の道を歩み始めたものの、対照的な歩き方をするふたり。その姿が違和感なく見られるのは、高橋と森本の演技力のおかげだろう。
若林を演じる高橋の目は死んでいて、山里を演じる森本の目は嫉妬と「この道で生きていく」という想いでギラついていた。
ベッドの上で虚空を見つめる高橋と、ヘッドリミットのネタを親の仇のように睨んで見ていた森本の目が忘れられない。もう高橋も森本も“本作の中では”アイドルの顔ではなくなっているのだ。
誰も知らなかった時代の若林と山里の物語はまだまだ続く。目が死んでいても、嫉妬に狂っていても、情熱はある――。
文・浜瀬将樹
関連リンク
【動画】『だが、情熱はある』の最新回を視聴する
【動画】『だが、情熱はある』
「だが、情熱はある」若林(髙橋海人)と山里(森本慎太郎)の空回り人生が加速!しずちゃん(富田望生)ついに登場 第3話見どころ
九条ジョー＆清水尋也、森本慎太郎“山里”の元相方役で『だが、情熱はある』に出演
「だが、情熱はある」若林(髙橋海人)は市民プールで春日と対決、山里(森本慎太郎)は大暴走を始める…第3話 新たな場面写真解禁!
「だが、情熱はある」しずちゃん(富田望生) 第3話から登場!山里としずちゃんはどんな出会いだったのか?