花形の仕事と思われる“女子アナ”のつらい現実
応募者の8割以上がエントリーシートで落とされるといわれる民放キー局のアナウンサー。数々の関門を突破し、やっと手にできる称号が“女子アナ”だ。私たちはテレビを通して彼女たちの仕事を知っているけど、その世界の“特異性”と“異常さ”を今回、ドラマを通じて改めて知ることとなった。
恵那の担当コーナー「エナーズアイ」に関して、チーフPの村井喬一(岡部たかし)から番組サイドで決めたことを「ただ読む」のが“女子アナ”だと諭されてしまうのもそのひとつ。思えば女性アナウンサーの略称である“女子アナ”は、世間が彼女たちに求める資質や役割が反映された呼称なのかもしれない。
“女子アナ”はニュース原稿の中身を伝えることよりも、多様な番組ジャンルで適切なリアクションをし、「アイドル的存在」でなおかつちょっと「未熟さ」があるような女性役割を担わされている。恵那は『フライデーボンボン』でずっと“女子アナ”らしく振る舞ってきたが、それももう、飲み込めない。制作会議で積極的に自分の意見を発言するなど、どんどん頼もしくなってきている。でも、今に至るまでの苦悩は相当あっただろう。
そもそもキャリアを積んでも「30歳定年説」にならって結婚するか、退社してフリーになるかなんていわれる世界。相変わらずセクハラ・パワハラを受けている様子からは、“女子アナ”がいかにジェンダー問題と男性優位社会を象徴している職業かということがよくわかる。
キャスターに憧れて入ったテレビの世界で念願のニュース番組でのサブキャスターにはなれたものの、6年間ずっとサブのまま。結局女性アナウンサーに与えられるのは、補助的な役割ばかりばかりなのだ。
斎藤正一(鈴木亮平)と付き合っていた当時、報道部のエースと結婚して寿退社ができれば勝ちだと本気で思っていたという恵那の台詞には、身につまされる思いの人もいたのではないだろうか。行き詰まりからハイスペ婚することで華麗に逃げ切れると恵那に思わせてしまったのは、“女子アナ”を使い捨てするかのように扱う業界の環境にも問題がありそうだ。
(ちなみにそのシーンのあとに出てきた恵那が斎藤の胸に頭を埋める場面はあまりに美しく、この2人の恋愛ドラマをもっと見たい! と思ってしまった。2人の今後にも期待したい……もしくは2人がラブラブだった頃の回想映像もっと供給してくれ!)
まるで権力の拡声器? 報道の現場で起こっていたこと
このドラマのすごいところは、現実の日本と地続きの世界線で展開されているということ。恵那が『ニュース8』のサブキャスターになったのは2010年4月。それから降板までの6年間、恵那はこの国でニュースを伝え続けていたのだ。当時を思い返すと、震災、原発事故、東京五輪開催決定などさまざまなことが思い浮かぶ。弁護士の木村卓(六角精児)に当時のことを語る恵那の言葉の重みは、2話のハイライトだろう。
「自分があたかも真実のように伝えたことのなかに、本当の真実がどれほどあったのかと思うと、苦しくて、苦しくて、息が詰まりそうになります。私には今、バチが当たっているんだと思います」
その後流れたのは、実際に報道されたニュース映像をそのまま使用した『ニュース8』の回想シーンだった。TVerでは当時のニュース映像は静止画に置き換えられているが、五輪招致に向けた安倍晋三元総理のアンダーコントロール発言、東京五輪招致を決定を喜ぶ組織委員会の様子など、ニュースで実際にみていた内容がオンエア上ではそのまま放送されていた(これを実現した制作陣の努力に震える……)。
今見ると、どちらもとても空々しい映像でびっくりする。ほかにも、東日本震災時の原発事故の対応についてや、復興五輪の名の下に福島の子供たちと五輪招致を喜ぶ内容を『ニュース8』で放送していたことが伝えられた。
恵那の真実味を帯びて聞こえるきれいな発声で伝えたこれらの報道。その内容には本当に嘘はなかったのか。大切なことに目をつむり、権力側の主張をそのまま拡声器のように報道をしていただけではないか。事実を伝えるという報道の使命と現実との矛盾の間で、恵那はずっと自分が何かに加担していたのではないかと苦悩していた。
ここに関してはフィクションではない。知っているだろうか、「国境なき記者団」が発表する、世界180か国の国と地域を対象にした「報道の自由度ランキング」で日本がどう評価されているかを。2010年の民主党時代は11位だったものが、2013年の政権交代からは大幅にランクを下げている。2016年・17年には過去最低の72位を記録し、今年も71位。G7のなかで最下位なのはもちろん、日本より下にランクされているのは独裁国家や軍事国家ばかり。これが民主主義先進国といわれる今の日本の現状なのだ。
そして今回から恵那と岸本拓朗(眞栄田郷敦)による、松本良夫死刑囚(片岡正二郎)の事件当日の足取り検証もはじまった。チェリーこと大山さくら(三浦透子)も関わるこの事件、はたして冤罪の可能性はあるのだろうか。気になることが多すぎる!
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