『コタキ兄弟と四苦八苦』最強の布陣だからこそ出せる不思議な味わい

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スター俳優を起用し、手間やお金を贅沢に使った作品よりも、「力のある脚本家・演出家・役者」の作品を求める人が増えている昨今のドラマ界。本来のドラマ作りとしては、隅っこのような存在にもかかわらず、いわゆるドラマファンにとってはおそらく今クールナンバー1の「ど真ん中」をいくのが、テレビ東京で毎週金曜深夜0:12から放送されている『コタキ兄弟と四苦八苦』だろう。

脚本を手掛けるのは、『アンナチュラル』『逃げるは恥だが役に立つ』(共にTBS)『獣になれない私たち』(日本テレビ)などを手掛けた人気脚本家・野木亜紀子。メガホンをとるのは、映画『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』『味園ユニバース』などの山下敦弘監督。主演は名バイプレイヤーの古舘寛治と滝藤賢一で、二人に"レンタルおやじ"をやることを勧める「先輩レンタルおやじ」には宮藤官九郎、各話ゲストには市川実日子、岸井ゆきのら・・・。しかも放送されるのはテレビ東京の深夜枠。言ってみれば、良い素材ばかりを名シェフが料理する小さな名店の料理であり、「これで美味しくならないわけがない」と感じる人は多いはずだ。

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そんな本作で描いているのは、真面目過ぎる「休職中」の兄とちゃらんぽらんで「エターナル無職」の弟が久しぶりに一緒に暮らし、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始めるという物語。実はこの企画、主演の二人が3年前に「自分たちが主演のドラマを作ろう」と話したことがきっかけで生まれたものだそうだ。

それを知ると納得ではあるが、最初にこの設定を聞いた時、ちょっと意外な気がした。というのも、野木作品というと、女性の生きづらさをヒリヒリするようなリアリティで描くものが多い印象が強かったからだ。

ところが放送が始まってみると、不思議なほど男性目線の「言い分」がリアルで驚かされる。真面目過ぎる兄の言い分には「ああ、こういう人確かにいる」とその面倒くささに頭痛がしてくるし、テキトーな弟にはまた何かやらかさないかとハラハラする。

さらに最初のうちは、「こういう人、実際にいそう」という目線で見ていたはずが、徐々に「身内だったら、兄と弟、どちらのタイプが困るか」などと真剣に考えるようになり、いつの間にか両者の言い分にうなずき「どっちの気持ちもわかるけど、やっぱり違うよな」と思ったり・・・「私は弟のほうが近いかなー」などと自分自身に重ね合わせてみたりもしている。

これは野木脚本の会話のテンポの良さやリアリティに加え、山下監督の柔らかくあたたかな目線、さらに主演の二人の佇まいのおかしみなどが、不思議な化学変化を起こすためだろう。なんだか恐ろしい親和力なのだ。

それにしても、凸凹なコタキ兄弟のやり取りはどこまでもおかしい。「不器用な兄弟」の日常を描くという意味では、理系研究員の堅物男子を佐々木蔵之介が、小学校公務員の弟を塚地武雅が演じた映画『間宮兄弟』に似たものを想像するが、間宮兄弟よりも、ずっとダメな人たちだ。

またバディモノ流行りの今、刑事や医師、探偵などたくさんある"バディモノ"では通常、孤高の天才と忠実かつ受容力の高い凡才など異なる力を持つ者同士が互いに欠けた部分を補い合い大きな力を発揮するというのがお約束だ。

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しかしコタキ兄弟の場合は、「レンタルおやじ」として依頼人の求めに応じるわけではあるが、どちらも難があるために「二人合わせて1時間1000円」という安価で依頼を受けている。そのリーズナブルさを鑑みてもなお、二人合わせて一人未満の役にしか立っていないことがある。場合によっては、余計なことばかり言ったりやったりすることでそれぞれが異なる方向から、むしろマイナスに引っ張っていくことすらある。

だが、依頼人の真意が見えてくるにつれてコタキ兄弟の四苦八苦ぶりが愛おしく思えるし、依頼人が最後に見せる顔は毎度心に刺さる。

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ちなみに「四苦八苦」はもともと仏教用語で、「四苦」とは"生、老、病、死"の苦しみで、「八苦」は四苦に愛別離苦(愛するものと別れる苦しみ)、怨憎会苦(憎むものと出会う苦しみ)、求不得苦(求めても得られない苦しみ)、五陰盛苦(心身の苦痛)。本作はそこにさらにオリジナルの苦しみを4つプラスした12話で構成されている。

つまり、題材はズバリ「苦しみ」なのだ。一見ユルく楽しい会話劇なのに、描いているものは実にシビア。その不思議な味わいは、おそらく野木脚本だけでも、山下演出だけでも作り出せなかった、二人の相性の良さが成せる業なのだろう。

(文・田幸和歌子)

◆番組情報
『コタキ兄弟と四苦八苦』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京で放送
また、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中
(C)『コタキ兄弟と四苦八苦』製作委員会

関連リンク
パラビ『コタキ兄弟と四苦八苦』視聴ページ

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