キャスト、スタッフ、ストーリーに死角なし!『春になったら』が放つ傑作ドラマのポテンシャル

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泣けるドラマがいいドラマとは限らないが、じんわり熱くなる瞼はこのドラマが心に沁みるドラマである証だ。

『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系、毎週月曜22:00~)がスタートした。

娘は、3ヶ月後に結婚する。父は、3ヶ月後にこの世を去る。たったふたりの父娘の最後の3ヶ月を描いたハートフル・ホームドラマだ。

娘・椎名瞳に奈緒。父・椎名雅彦に木梨憲武。脚本は、『まんぷく』(NHK総合)の福田靖。監督は、『きのう何食べた? season2』『かしましめし』(共にテレ東系)など温度と湿度のある映像が美しい松本佳奈と、映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』が記憶に新しい穐山茉由。プロデュースは、『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)が高い評価を受けた岡光寛子。

この冬、“隠れた名作”になりそうとドラマウォッチャーから密かな注目を集めていた本作。その真価を探る。

日常を描くことで浮かび上がる、死という現実



私事だが、昨年秋、父が癌と診断された。幸いステージIIで早々に手術を行い、現在は抗がん剤治療を続けながらも変わらない日常を過ごせているが、父が癌とわかったときの足元が砕け散るような恐怖は、今も体に染みついている。もしこれが末期癌で、目の前で医師から余命宣告をされたら――。想像するだけで、呼吸が止まりそうになる。

そんなことを思ったのは、奈緒演じる瞳の表情があまりにも真に迫ったものだったから。

「治療を受けても、5年生存率2〜3%。しかし治療を受けなければ、ご家族と一緒に桜を見られればいいですねとお伝えしました」

医師が話す言葉を、瞳はうまく頭の中で消化できない。最初は、父の苦しまぎれの嘘だと思っていた。2024年、元日。1年の始まりの日に、瞳は父に3ヶ月後に結婚すると報告する。相手は、38歳の売れない芸人。当然、父は大反対。結婚を止めるために口から出まかせを言っているのだと、瞳は聞く耳すら持たなかった。

だけど、そうではなかった。カルテの診断名は、椎名雅彦。間違いなく父の名だ。凍りついた瞳の表情は、そこから溶けない。ここからのシーンが、第1話のハイライトだ。

病院から出た瞳のもとに、勤め先の産院から電話が来る。出産予定の妊婦が産気づいたという。急いで現場に駆けつけた瞳は、落ち着いた様子で出産のサポートをする。どんなに悲しい出来事に見舞われても、人はそこで立ち止まっていられない。むしろ何か手を動かしていた方が、不安がやわらいだようにも感じられる。だから、なるべく普段通りのことをしようとする。

妊婦に優しく声をかける瞳は、助産師の顔だ。はたから見れば、たったひとりの父の余命宣告を受けたばかりには見えない。だけど、その人が何を抱えているかなんて誰にもわからない。バカみたいに笑っている人が、本当は絶望のどん底にいることだってザラにあるのが人生だ。

目の前で生まれようとしている新しい命。それに対し、瞳の脳裏をよぎるのは、消えかけようとしている大切な人の命だ。母を早くに亡くした瞳は、ずっと父とふたりで生きてきた。自分の成長を、いつも大袈裟なくらい父は喜んでくれた。助産師という仕事に就くきっかけを与えてくれたのも父だった。その父が、春になったらいなくなる。

仕事中の瞳は決して動揺を見せない。だけど、内実を知る視聴者にだけは、献身的にお産の介助をする瞳の胸のうちに悲しみと不安が広がっているのが伝わってくる。むしろあからさまに感情をさらけ出さないから余計に苦しい。

しかもそこにオーバーラップするのは、同じくいつものようにハイテンションで実演販売士の仕事に就く雅彦。余命宣告というドラマティックな場面を強調するのではなく、いつもと変わらない日常を見せることで、父娘が直面した死を浮かび上がらせる。実に心揺さぶる演出だった。

単純なお涙頂戴では終わらないドラマにきっとなる



仕事が終わった瞳は家に帰る。そこには、いつもと同じように父がいる。残り少ない人生を病院のベッドに縛りつけられて終わるのは嫌だと治療を拒否する父と、私のために治療を受けてと懇願する娘。どちらの気持ちもわかる。きっと立場が逆なら、ふたりも逆のことを言っていただろう。命の終わりを知ったとき、つい一縷の望みにすがりたくなるのは遺される側なのかもしれない。

「瞳! お前、もう大人だろ」

雅彦にそう諭された瞳が「関係ない」と泣きじゃくる。「死んじゃ嫌だ!」と叫ぶ。それは、まるで子どもの駄々のようだった。普段は気丈なしっかり者。でも、親の前では子どもはいくつになっても子どものままなんだ。

そんな瞳の激しい葛藤を、奈緒が瑞々しく表現する。雅彦との丁々発止のやりとりも、父の病気を知ったときの頬の筋肉の硬直も、怒ったような泣き顔も、どれもちゃんと息吹が感じられる。第1話にして、椎名瞳という人がそこに生きていることを感じられる。

そこに、父役の木梨憲武が持つ明るさと庶民性が加わって、まさに理想の父娘像。ストーリーだけを見ると重い展開になりそうだが、このふたりが演じるのならば、単なるお涙頂戴では終わらない、温かさと軽やかさの中に人生の機微を見出すような、そんなヒューマンドラマになるのではないかと期待が湧いてくる。

そこに名作請負人の小林聡美、安定感たっぷりの光石研、人間味溢るる筒井真理子が加わり、ベテラン勢に死角はなし。さらに、おそらく瞳に好意を抱いているであろう同級生役に深澤辰哉、瞳の式を担当するウエディングプランナー役に西垣匠と、華のある若手もしっかり揃えている。

決して湿っぽいだけのドラマで終わらないことが、第1話ラストの派手な父娘ゲンカでも窺える。このポテンシャルを“隠れた名作”で終わらせるわけにはいかない。正真正銘の傑作ドラマとして多くの人の記憶に焼きついてほしい1本だ。

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