しかし、そんな南さんは多くの40～50代女性のスタンダードだろう。優秀な息子を持つ香保を羨み、一緒に居合わせた娘には香保が「ママより若く見える」と言われ、おそらくはキズツイた気持ちを隠しつつ、イタズラっぽく笑う。
「お金持ちだもん。洋服もいいもの着てるだろうし。エステとかも行ってるんじゃない？」
40～50代くらいになると、若い頃の造形とは別に、如実に表面化するのが、カネや時間などのゆとりの差だ。「若く見える」タワマン住まいの香保だってもちろんキズツイているわけだが、豊かでキラキラに見える同級生とリアルに年齢を重ねている自分との違いに、ドッと疲れを感じるときは多くの中年女性にあるだろう。
しかも、今回特に際立っていたのは、家庭でのリアルなやりとり。夫が単身赴任のために不在で、一人で家事を全部やりながらヘルパーの仕事もしている南さんは、3個口のコンロをフルに使って、いっぺんにいくつもの料理を時短で作り、スマホを見ている娘に「手伝って～」と声をかける。一向に動こうとしない娘に「動くと損みたい」とツッコむと、すかさず「損だもん！」。しかも、娘は何もしないくせに「ドレッシング、青ジソがいい」と言い、のっそりやってきた長男と二人で黙って食べ始める。
「ちょっと！ いただきますくらい言ったら？」「ママのこと、待っててあげようとか思わない？」「お弁当箱出してないでしょ」、子どもからすれば「いちいちうるせえなあ」だろうが、親からすれば「毎日同じことを言わせるな」だろう。
そして、友人の息子が京大に受かった話をすると、子どもたちは「絶対高い塾とか行ってんだよ」「僕も塾辞めたい」と、自分が行きたいと言ったくせに、いつの間にか「親にやらされている感」を出すから腹立たしい。
その後もゲームを片付けろと注意したり、一息ついて久しぶりに塗ろうと取り出したマニュキュアはカピカピに乾いていたり、朝も何度も起こしたのに「なんで起こしてくれなかったの?」と言われたり･･･高校生くらいの子を持つ女性の多くは、まるで自分の家をのぞき見されているんじゃないかと思うほどのリアルさだろう。
おまけにヘルパーの仕事ではぞんざいな扱いをされ、たまりにたまった台所の汚れ物を片付けようとすると「洗剤使いすぎるんじゃねーぞ！」。
そんな南さんがたどり着いたのが、ママ・トウコ（原田知世）が営む「スナック キズツキ」だ。キズツキ、疲れたときに無性に欲しくなる、ゆっくりと丁寧に淹れたコーヒーと手作りのシュークリームにより癒された南さんは、「今日はいい1日だったな～」。思わず口をついた、自分のちょっと大きな声に驚いたように、涙があふれだす。そこから突然トウコに靴のサイズを聞かれ、現れたのはタップシューズ。戸惑いながらも誘われるままに自己流でタップを踏み、「私、ときどき地団太踏みたくなる」と言いながら、娘や息子、ヘルパーをする高齢者たちの「やってもらって当然」の態度を思い出す。
「感謝の言葉が欲しくてやってるわけじゃないけど」
タップという地団太を踏むうち、顔が上を向き、胸も開いて顔色が紅潮していき、「若く見える」ようになってくる堀内敬子の変化の巧さよ。そして、帰宅するや、スマホを見ながら「ママー、お腹すいたー」という娘に、「ママは疲れたので今日は寝る！」宣言をする。
おそらく世の中の多くのお母さんたちが心の中で拍手を送りそうな爽快なラストだったが、ゲームばかりして何もしない娘もまたキズツイていることが、次回描かれる。そのキズツキやいかに？
（文：田幸和歌子／イラスト：たけだあや）
【第9話（12月3日[金]放送）あらすじ】
今回スナック キズツキを訪れる客は裕子（堀内敬子）の娘で芽衣（吉柳咲良）。17歳の芽衣は、大学進学のことばかり気にする大人達にもやもやするが実は夢がある。そんな中、片思いの人にばったり出会い良い感じの雰囲気になるが･･･。雨宿りで訪れたキズツキでホットサンドを食べる芽衣。今を大切にしたい芽衣は『今ここにいる私って、価値がないってことなのかな』とトウコ（原田知世）に打ち明け、今の自分を忘れないためにと驚きの方法を提案される。
◆放送情報
『スナック キズツキ』
毎週深夜0：12からテレビ東京で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信されている。
関連リンク
何気ない日々に溢れる愛『きのう何食べた？』！・横川良明が選ぶParaviおすすめの一本
【ネタバレ】『スナック キズツキ』頑張ってきたお母さんが荷物を下ろすとき
深川麻衣主演「とにかく婚姻届に判を捺したいだけですが」に福山翔大が出演決定
東野幸治がムツゴロウに取材！「東野幸治のネイチャーなの？」第2シーズン配信開始
『この初恋はフィクションです』祖父江らしき男子生徒がついに登場か!?