【ネタバレ】長瀬智也主演『俺の家の話』最終話!想定外の死で幕開け

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『俺の家の話』(TBS系)が終わった。最終話である第10話は、『俺の家の話』なのに「俺」である長男・寿一(長瀬智也)自身がいない、前代未聞の「俺がいない俺の家の話」だった。

第8話でさくら(戸田恵梨香)とユカ(平岩紙)に「妖精みたい」と評されていた長瀬智也演じる寿一は、本当に妖精のように、台風のようにつかの間やってきて愛を注いで消えていった幻のように、私たちの心をかき乱して消えてしまった。元気いっぱいの「いただきます」の声だけを残して。

10話冒頭、不穏に示される火葬場の煙。初回の終盤同様、長男・寿一の「いただきます」から始まった、観山家の食卓は何かがおかしい。妙に無邪気にはしゃいでいる寿一と、楽しそうにツッコミをいれる寿三郎(西田敏行)、変な顔をして父を見つめる兄弟・妹。みんなが寿一の話を愛おしげにしているのに、寿三郎以外の全員が、当の寿一本人を疎外し続ける謎の状態がしばらく続き、ようやく明かされる、寿一の死。9話終盤、意気揚々と向かった、「スーパー世阿弥マシン」の引退試合での事故により、観山寿一は、看取ろうとした父・寿三郎よりも先に亡くなったのであった。

父親のエンディングノートを手伝っていたはずが、葬儀の手配も、「最高の家族写真」を引き伸ばした遺影も、戒名も、ビデオレターも、全部自分の終活に取って代わってしまうなんて誰が予想できただろうか。9話において「長男としての義務」に邁進するかのように、他の弟・妹たちが戸惑うほどのスピードで、父の死後の準備を着々と進めていた彼は、世阿弥の教え「離見の見」により、もう一人の自分を作り出し、自分自身を客観視することによって「俺にはまだ早い。まだまだ親父にはあそこに座ってもらわなきゃ困る」と判断し、「スーパー世阿弥マシン」として寿三郎を鼓舞することで意識のない父を無事生還させるという奇跡を起こした。今思い起こせば、9話序盤に現れる父親の亡霊に取って代わったように2回現れる、もう一人の寿一というドッペルゲンガー的状態は何かの予兆だったのだろう。

寿三郎が言っていたように、あまりにもいいことが起こり過ぎた、寿一の母の月命日の日、極めつけの数の子一本食いによって、これ以上の幸せの加算による死を恐れ、それを食べることを拒んだ父の身代わりとなって寿一が死んだというのは、さすがに寿三郎の思い込みに過ぎないようにも思う。

だが、そのあまりにも強い、寿三郎の生への尋常じゃない執着心は、1度しか起こらないはずの奇跡を3度も起こした。一方の、まるで家族が最も幸せになる方法を考えた末に、「長男として」自ら用意しなければならなかった棺の中に「ただ父と家族のことが大好きなために」うっかり自分が入ってしまったかのような寿一の死も、このドラマが描いてきた「そういうもん」である、絶対的な家長の下にある、強固な家父長制から、自身と家族を自由にする手段だったと言えるのかもしれない。それによって、寿一の影で「俺じゃない」と思い続ける人生を生きてきた寿限無(桐谷健太)が、後に宗家となり、芸術祭優秀賞を受賞し、ようやく報われたのだろうことが後日談として語られたように。

また、能舞台/プロレスのリングという神聖な空間に、絶対に死者である寿一を入れまいとする寿三郎/長州力というのも興味深かった。生者と死者の間はどんなに近くにいて、思いあっていても、触れ合えない切なさがある。絶対に交われない境界線がある。『隅田川』の抱きしめようとしてもすり抜けてしまう亡霊の息子のように。『隅田川』の最中、息子・寿一が既に死んでいることを悟り嘆く父・寿三郎と、自分が既に死んでいることを悟り、息子・秀生(羽村仁成)と共にもう舞えないことを悟り悲しむ寿一という父子の光景のように。そして、さくらと、亡霊となった「スーパー世阿弥マシン」の姿をした寿一が、マスク越しのキスをするように。

マスクを外そうとする寿一を止めたさくらは知っていたのかもしれない。寿一にプロポーズされ、喜びでマスクを外すことで、表情を獲得し、人間性を回復していったさくらと違い、寿一の場合、マスクを取ったら消えてしまうかもしれない「自分のない寿一」のことを。

誰かのために生きてきた、誰かの思いを反映する能の「面」のような存在である寿一は、25年ぶりに実家に戻り、「世阿弥」と化し寿三郎を鼓舞し、皆が求める「家族を鼓舞する明るい長男」として弟妹を鼓舞し、さんたまプロレスの危機を救い、それぞれの背中を押し、全てが収まるべきところに収まるようにして、父に「やっと褒められた」ことに満足して、全ての役目を終えていなくなった。本当に彼は、あまりにも全てが「大きすぎる」妖精だった。

なんと鮮烈な終わり方なのだろう。長男の「いただきます」で始まった、一筋縄ではいかない、綺麗ごとばかりではない、濃すぎるホームドラマは、過去と現在、あの世とこの世を繋ぐ「ディスタンス」な「いただきます」で締めくくられる。死者と生者は決して同じ世界には住めない。でも、彼らの心の中に寿一が存在し続ける限り、寿一は彼らと共に食卓を囲み続けることができるのである。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

◆放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。

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