『いちばんすきな花』神尾楓珠“紅葉”を苦しめる「優しさ」の定義

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2人で一緒に描いた、木陰のブランコ。篠宮(葉山奨之)はその絵を上から塗り潰した。まるでそんな思い出、はじめからなかったみたいに。

「そっちの勝手な罪悪感で、こっちのいい思い出塗り潰さないでよ」

『いちばんすきな花』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)第5話。そこにあったのは、優しさとは誰のためにあるのかという問いだった。

紅葉は、篠宮にも黒崎にも選ばれなかったことがショックだった



アイツは、ひとりぼっちの「余りもの」。だから、2人組になるのが苦手な自分でも1人にならなくてすむ。佐藤紅葉(神尾楓珠)はそんな下心で篠宮と仲良くなった。いじめているやつより、いじめを見て見ぬふりしているやつより、いちばん最低なのは自分だ。紅葉の胸の裏側に、ずっとこびりついていた罪悪感。

でも、なんとなくだけど、篠宮だってそんなことは気づいていたんじゃないかな。ぼっちに慣れていれば、自分がどういうふうに見られているかなんて人一倍敏感になる。紅葉の優しさが、純粋な善意だけで成り立っていたわけではないことくらい、篠宮も学生の頃から見抜いていた気がする。

それでも、優しくされたらうれしかった。自分は、そこに咲いていることに誰も気づいてくれない花なんかじゃない。色とりどりの花壇ではなくても、電柱の足元のジメジメとした日陰でも、誰かが気づいて「おはよう」と声をかけてくれるだけで、ほんの少し背筋を伸ばして咲くことができた。それだけで十分だったし、感謝もしていた。

だから、紅葉のあの懺悔は、思っていてもいいけど、言わなくてもいいことだった。もし優しさに種類があるとしたら、あの告白は自分の後ろめたさを薄めるためだけの、自分のための優しさ。あのとき、紅葉は紅葉で篠宮のことを便利に「利用した」んだと思う。

じゃあどうして紅葉はわざわざ言わなくていいことを言わずにはいられなかったのか。うっすらと下に見ていた相手が、自分よりずっと成功している画家になっていることへの嫉妬心もあったと思う。

でもいちばんは、篠宮と黒崎が今でも仲良くしていることがショックだったからだろう。2人組になれない「余りもの」だと思っていた相手が、ちゃんと2人組になった。あのとき、周りにもっとたくさんの人がいたはずの紅葉は、結局、2人組にはなれなかった。自分は篠宮にも、黒崎にも、選んでもらえなかった。だから、つい露悪的なことを言って、全部なかったことにしたかった。勝手に美化された憧れの人気者像を壊したかった。

篠宮の返事は、「またおいで」ではなくて「バイバイ」だった



「お邪魔しました」と言われたらなんと返せばいいんだろう。そう不思議がる春木椿(松下洸平)に、紅葉は「またおいで、じゃないですか」と答えた。「またおいで〜」と手を振る椿は、ちょっととぼけていて、すごく可愛かった。

だけど、「お邪魔しました」とアトリエを去る紅葉に篠宮が告げたのは、「バイバイ」。この2人に「また」はない。それがとても悲しくて胸が痛い。

紅葉の苦しさもわかるけど、僕はつい篠宮のつけられた傷の方に寄り添ってしまった。2人で一緒に描いた、木陰のブランコ。きっと紅葉はもうあのときの絵なんてとっくに捨ててしまっただろう。

だけど、篠宮はずっとあの光景を覚えていた。だから、ああして絵にした。あのとき、本当は青葉だったのに、絵の中ではピンク色の花が幻想的に咲いていて、それくらい篠宮の中では美しい思い出だった。忘れられない景色だった。2人分のブランコを描きながら、きっと篠宮は紅葉のことを思い出していたはずだ。

紅葉は2人組にはなれなかったけど、誰からも必要とされなかったわけじゃない。3年生になったとき、あの廊下で2人組になった篠宮と黒崎に声をかけていれば、3人組になれたかもしれない。ナンパのときだけ都合よく呼びつけてくる友達とつながっているくらいなら、篠宮と黒崎と一緒にいた方がずっと楽しかったように思える。

でもそうしなかったのは、紅葉が篠宮や黒崎のことを下に見ていたからだろう。クラスカーストなんてものがこの世になければ、人はもっと自分に合う人と仲良くなれるのに、周りの目を気にして、ちょっとでもステータスの良さそうな人とつるんでしまう。

そう考えると、あの4人が仲良くなれたのは同じコミュニティに属していないからかもな、と思った。もし同じ教室にいたら、潮ゆくえ(多部未華子)と深雪夜々(今田美桜)は絶対違う女子グループだっただろうし、紅葉は椿のことも下に見ていたかもしれない。

なんなら教室ほど友達をつくるのに不向きな場所はないんじゃないだろうか。コミュニティという場に縛られないから、ポジションとか、周りの評価とか、そういうノイズに一切とらわれることなく、相手の本質を見ることができる。大人の友情は、だから尊い。

「綺麗なお花だな〜ってうっとりしている人にさ、それ棘ありますよ、毒ありますよってわざわざ言わなくてもいいの。その人がどう見ているかでいいんだよ」

今回のいちばんの名言は、ゆくえのこの台詞だろう。自分の優しさを肯定できない紅葉だけど、どんな邪な打算があったにせよ、篠宮に声をかけた優しさは優しさでいい。

だから、いつか「バイバイ」が「またおいで」になったらいいな、と思う。今は無理でも、もう少し時間が経って、また紅葉と篠宮が会えたらいいな、と思う。優しい思い出を分かち合える人の数って、そんなに多くない。傷つけられたからと言って、関係が断ち切りになってしまうのは、なんだか少しもったいない。塗り潰されたら、またその上から違う色を塗り替えたらいい。

また一緒にあのブランコで絵を描いている。そんないつかの未来を願わずにはいられない結末だった。

椿が優しすぎて、ほとんど仏



それにしても、椿の優しさは底なし沼すぎないだろうか。人間ができすぎていて、もうほとんど仏に見える。アポなしで家にやってきても温かく迎え入れ、寝落ちしたら布団をかけてくれて、起きたらコーヒーの準備とシャワーも貸してくれる。おかんでも、ここまで優しくない。

電話を切ろうとする紅葉に、「駅までもうちょっと歩くから耳貸せるよ」と話を聞き、もうとっくに駅に着いているのに、何も言わずに付き合ってくれる。Siriだって、ここまで話は聞いてくれない。

まるでクッションみたいに、柔らかい「うん」の相槌。その音も話す側の痛みに寄り添って、繊細にグラデーションが変わる。

「お腹痛いとき、お腹痛いって言っても治んないけど、痛いのは変わんないけど、紅葉くんは今お腹痛いんだってわかっていたい人はいて、わかっている人がいると、ちょっとだけマシみたいなことはあるから」

言っても解決しない愚痴や相談を、それでも誰かに話したくなるのは、自分がしんどいことをわかってくれる人がいるだけで、気持ちが楽になれるからだ。

こんな椿がずっと2人組になれないって、周囲の人間の目は節穴すぎんか。たぶん今、テレビの前で椿と2人組になりたい人が大量発生している。プラチナチケットすぎて、販売開始の10時になった瞬間、サーバーが落ちるレベル。

案の定、夜々は椿に想いを寄せはじめているようで……。4人の関係は、友情と恋愛のはざまで微妙に揺れ動いている。

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