【ネタバレ】『TOKYO MER』官僚としての未来と医師の使命に揺れる音羽の決断

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日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)第5話は、医系技官の音羽(賀来賢人)のスタンスが問われる回となった。

今回、救命医療のプロフェッショナル集団MER(Mobile Emergency Room)が出動要請を受け向かったのは何と病院内のエレベーターだ。不正疑惑から雲隠れするために仮病を使ってVIP対応の個室で入院中の大物政治家・天沼夕源(桂文珍)と付き添いの音羽、そしてチーフドクター・喜多見(鈴木亮平)の妹・涼香(佐藤栞里)と妊婦の立花彩乃(河井青葉)の4人がたまたま乗り合わせたエレベーターが、火災によって急停止し閉じ込められてしまったのだ。煙が充満し酸欠状態の中、妊婦の容態が急変するのを尻目に、天沼の傍若無人ぶり、我先に助かろうとするあまりに自分本意な姿が本当に忌々しい。(こんな政治家は物語の中だけだと笑って済ませられないのもまた切ないところだ)

自身の官僚人生が懸かっているとは言え、医師である自分は仮病の政治家に付き添うしかなく、一方本当に今すぐ助けが必要な妊婦にはNPO法人のスタッフである涼香が何の迷いもなく必死に寄り添っている。

このあからさまなコントラストに、これまでも散々現実と理想の壁にぶち当たり日々自分を押し殺してきただろう音羽も、本当にこれが自分が目指した社会なのか、貧しかったがため適切な医療にアクセスできず早死にした自身の母親の死を前に誓った理想とはこんなことだったのだろうか、と自問自答したことだろう。

目の前の(医療にアクセスできる)たった一人の患者を救うだけでなくもっと抜本的な変革を起こさないとそもそも母親のような人は救えないと医師でありながら官僚になることを選んだ音羽だが、「大事の中に小事なし」「変革には犠牲はつきもの」と割り切って目の前の命をみすみす見殺しにできるのだろうか、そうまでして成し遂げなければならないことって何なのだろうか、と。

天沼の救助が先か、妊婦の緊急オペを優先すべきか、喜多見は音羽に選択を任せる。それは"同士"ゆえに、信頼しているからこそ委ねられる局面だ。何も喜多見は彼を試そうとしたのではない。この期に及んで敵か味方かを見極めようとしたのでもない。MER出動要請を求めた時点で音羽は妊婦の状態をさりげなく伝えていたし、それをきちんと喜多見はキャッチしていた。

大事なことは、答えはもっともっとシンプルであることを喜多見は改めて音羽と共有して確認したかったのかもしれない。また、あのような一刻を争う場面で、少しでも迷いがあるとそれはきっと手元を狂わせ命取りになる。音羽の不要な肩の荷を下ろし、"やるべきこと"にだけ集中できるようにしたのかもしれない。

「人の命より大事なものなんてこの世にはないんです」と断言した音羽の言葉を、妊婦も赤ん坊も救った後に官僚の勤め"後始末"を果たそうと病室に向かった音羽に掛けられた感謝の言葉、命への賛美が見事回収していく。彩乃は言うのだ。

「そんなことどうでも良いです。この子が元気に生まれてくれただけで、もう何も要りません」

本来はそれこそが正義であり、それだけがどんな状況下でもはっきりとわかっているたった一つの正しいことなのだ。命は尊い。

あんなに無垢で無防備な赤ん坊の小さな小さな命を前に、音羽はあの時少しでも迷いが生じた自分を悔い、改めて恥じたことだろう。そして、きっと理屈抜きに自分の中から湧き上がる命への全面降伏、"生"への賛辞を噛み締めたことだろう。そして自身の本当の原点であり使命を思い起こし決意を新たにする。

「この国には国民を守るための制度が少しずつですが出来ています。(中略)新しい命を支援する仕組みを利用してください。私はそうした制度をこれからもっと拡充して誰もが希望を持って生きられる国にしていきます」

本作で賀来賢人のまた違った顔、二面性が見られた。主演作『今日から俺は!!』の三橋貴志役としてのぶっ飛んだキャラクターも魅力的だが、打って変わって『半沢直樹』(TBS系)での半沢の部下・森山役で見せた抑えめの演技でも存在感を放っていた。本作での音羽は後者の要素に加え、影での暗躍を期待され送り込まれる刺客であり、冷静さを兼ね備えた野心家でもある。医師としての顔と官僚の顔の両面を合わせ持ち、どちらかに明確に軸足がある訳でもない絶妙な立ち位置で、MER内で全く異質な存在だ。

自分の心の置き所を保つのも大変だろうし、常に自分自身と、そして社会と闘い続けている孤高の戦士感が漂う。多くは語らず、ふとした時に漏れ溢れる表情に音羽の本心や揺れ動く迷いが投影される、とてもとても繊細で、実はかなり人間臭い役どころを見せてくれている。


赤塚知事(石田ゆり子)や喜多見が咄嗟に機転を利かせたことにより、MERには追い風が吹いている。音羽へのMER解体任務も一旦ストップし、音羽はただただMER業務に当たることになる訳だが、海外の紛争地で医師として救命活動に当たりどの命も等しく扱う喜多見と、医療格差の是正を望む音羽は根本の思想はかなり近しいはずだ。この凹凸コンビがさらに心を通わせ、もっと真っ直ぐに手を取り合えれば鬼に金棒だろう。そんな展開を祈りつつ、音羽がもっともっとしがらみから自由になり、彼が想う真の理想に向かって邁進できることを願わずにはいられない。

(文:佳香(かこ)/イラスト:たけだあや)

【第6話(8月8日[日]放送)あらすじ】

18人の小学生が山中で突如として失踪する謎の事件が発生。現場に向かったTOKYO MERの喜多見幸太(鈴木亮平)は、子供たちを捜索し、治療するためメンバーを分散する決断をする。これまでチーム一丸でピンチを乗り越えてきたメンバー達は、バラバラに闘うことに...。

音羽尚(賀来賢人)や弦巻比奈(中条あやみ)は原因不明の重症に陥った子供たちの治療に苦慮する中、喜多見も必死に処置に当たるが、必要な薬剤が全く足りない...!なす術のない喜多見に、最大の危機が襲いかかる!

◆放送情報
日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』
毎週日曜21:00からTBS系で放送。
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」で配信。
また、Paraviオリジナルストーリー「TOKYO MER~走らない緊急救命室~」が独占配信中!

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