【ネタバレ】『生きるとか死ぬとか父親とか』父と母と娘の3人家族が浮かび上がるフィナーレ

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ラジオパーソナリティーでコラムニスト、ジェーン・スーのエッセイを原作に据え、吉田羊×國村隼のW主演で家族の愛憎物語を描いた『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京ほか)の最終話である第12話が、6月25日(金)に放送された。

ここまで幾度となく脳裏をよぎっていた、心に暗い影を落とす断片的な記憶。それが父・哲也(國村隼)とトキコ(吉田羊)の間で「神格化」してしまっていた母(富田靖子)がひた隠しに隠してきた寂しい行為だったことが、前回思い出される。

そして最終話では、ついに父について綴ったエッセイ本が完成。そんな中、トキコは新たに月曜日から金曜日までの昼帯のラジオを打診され、悩んでいた。

ある日トキコは父に頼まれ、買い物に付き合う。カバンのほかに紙袋を持って登場した父に疑問を感じて中身を聞くと、おもむろに錆びた出刃包丁を取り出し、研いでもらいたいからまずは金物屋に行こうと話す。実は哲也は、研いだ後の出刃包丁をトキコに渡すつもりだった。

6寸の出刃包丁を家庭で使っているのはいまどき珍しいと店主に言われ、「うちの女房の愛用していた包丁でね。死んじゃったもんで、今日は娘を連れて研ぎに出しに来たんですよ」と語る哲也。「そうだったんですか・・・」としんみりした様子の女将に、すかさずトキコがこう補足する。「母が死んだのは20年前なんですけどね」

20年も前のことをつい最近のことのように話す父と、それにツッコミを入れる娘――どこの家庭でもよく見かける光景だが、複雑な家庭事情を知っているだけに、このどこにでもあるやりとりが余計に愛おしい。

雑談のついでに、街がどんどん変わっていることについてトキコが何気なく尋ねると、女将は新しい人が入ってきて賑やかになると肯定的な姿勢を見せる。それはトキコにとっては意外な答えだったが、哲也は「あの女将はたいした商売人。老舗(しにせ)のたくましさだよ」と評価する。

いつになく穏やかな空気のためか、食事時にトキコは珍しく仕事について父に相談する。昼のラジオの話が来ているが、今の番組とはリスナーが異なるため不安だと話すトキコに、父は内容が変わらないことを確認したうえで「だったら大丈夫だよ」「さっきの金物屋の女将を見習わなきゃ」と話し出す。

女将は、タワーマンションが建って周りがどんどん変わるからこそ、変わらない自分たちの店が一層目立つと気づいていると言い、「周りの変化があの店の風格を作っているんだよ」「だから、同じことを、手を抜かないでやっていりゃ、商売はうまくいくってこと」と諭す。

これは、コロナ禍でますます世の中が大きく、すごいスピードで変わる中、自分の仕事や生き方に不安を抱くすべての人に刺さる言葉だろう。

さらに哲也は不意に封筒を手渡す。封筒といえば、父からのマンションのおねだりや、母のがんの再検査、父が家を売った後の家賃の督促状など、嫌な記憶ばかりが瞬時に蘇るトキコだが、今回の中身は「申し次ぎ」。母の好きだった江戸の老舗を書き連ねたものだった。

「ちょっとやめてよ(苦笑)。遺言みたいじゃない」とトキコ。俺もいつまで生きてるかわからないしと言う父に、「何言ってんのよ! お父さんがいなかったら、ここに書いてあるお店なんて、私一人じゃまわれないから!」と感情的になり、目が潤み、鼻が赤くなっていく。まだ元気なうちに一緒にまわればいいと哲也が言うと、「そうだよ。そんなに早くくたばってもらっちゃ困るからね」と早口でまくしたてる。

眉間にしわを寄せ、鼻も目も赤くしながら勢いよく食事を口に詰め込むトキコの姿は、母の秘密を知ったときに見せた哲也のリアクションとそっくりだ。

これまで父とトキコの間に神格化された母がずっと存在していたが、母の寂しさ・人間らしい弱さを受け入れることで、その関係性は横並びになった。そして今回、初めて父がトキコと亡くなった母とをつないでくれたのだ。

父についてトキコが書いた新刊の表紙には、母の好きな花・白いカラーが描かれていた。そして、その花のシルエットと、父が愛おしそうに眺める白文鳥の姿が、重なり合う。なんて美しい映像なのだろう。

特殊な事情を孕むトキコの家庭を見ているはずなのに、コロナ禍でなかなか会えない遠方の親を思い出した人も、失った親を思い出した人も多数いただろう。それは、ときには自分自身の中の忘れていた、あるいは封印していた感情も引きずり出すものでもあった。

それが本編でじわじわとたまり、高橋優のオープニング「ever since」の「いつからだろう あなたの背中が少し小さく見えた」、ヒグチアイのエンディング「縁」の「歩幅合わせて歩くようになった それが寂しい」部分で毎回条件反射のように涙が溢れ出してしまった12夜が終わった。脚本も役者も演出も音楽も、一切の過不足なく完璧に研ぎ澄まされた、厳しくも温かく奥深い作品に毎週会えた日々が、とうとう終わってしまった。

(文・田幸和歌子/イラスト・月野くみ)

◆番組情報
ドラマ24『生きるとか死ぬとか父親とか』
動画配信サービス「Paravi」にて全話配信中

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