風間最後の捜査の犯人は全盲の大学教授
隼田と風間が臨場したのは、千枚通しで殺害された遺体のある現場。そこは実験中の事故によって失明した有機化学者で大学教授の清家総一郎(北大路欣也)の邸宅で、被害者は娘の甘木紗季(森カンナ)の夫だった。
千枚通しを使った犯行が断続的に起きていることを思えば、この事件も十崎の犯行だと隼田が推測したくなる気持ちはわかる。しかし風間は、「決めつけるな」と一蹴。捜査の鉄則は「まず身近な人物を疑え」。一番に思い当たるのは清家教授だった。
風間のアイコンタクトで隼田は清家教授にサングラスを外してもらうが、そのツーカーなやり取りはなんだか見ていて嬉しくなった。指導官と道場生というより、信頼し合うバディという感じがしたから。
難解な事件を解決する際、シャーロック・ホームズはワトソンに「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」とたびたび語っている。
あり得ない仮説を取り去っていくと、たとえどんなに信じられなくとも、除いていって残った最後の一つが真相に違いない。そういう推理方法なのだが、この事件もまさにそれだった。
ありとあらゆる可能性・仮説をひねり出して、その一つひとつを検討していくと、犯人は清家教授となる。犯行に至った犯人のドラマ性も充分に味わえる秀逸な回であり、紗季が口ではどうしても言えなかった「ありがとう」を、清家教授の手の平に指先で字を書くことで伝えていたシーンにもぐっときた。
木村拓哉×北大路欣也の8年ぶりの共演はじっくり見たいところだが、展開が早いのには理由がある。十崎が巡回中の警察官によって逮捕されたのだから。
警察官を根本から変えるためにした決断
専従捜査チームの柳沢浩二(坂口憲二)は、十崎と現場で遭遇していた配達員の鳥羽暢照(濱田岳)に面通しをさせるも、確信が持てない鳥羽から証言を得ることができなかった。しかも職務質問を行った警察官2名が不適切な方法で彼を逮捕していた事実も明るみに出る。
今回のように、ドラマや小説などフィクションの世界では、任意同行の際にごく軽い身体接触で公務執行妨害罪を適用するシーンがたびたび描かれてきた。それは警察による不当捜査の象徴でもある。
その様子がSNSで拡散されるシーンもあったが、これは実際に昨年、警察官が男を公務執行妨害容疑で現行犯逮捕する際に馬乗りになり罵倒している映像が拡散されたことを意識してのことだろう。
残念ながらリアルな警察官のなかにも、公的な権力が与えられていることを自分の特権だと勘違いし、相手を煽るだけ煽っておいて抵抗すれば公務執行妨害罪で逮捕するという人がいるのだ。
先の事件で清家教授はこんなことを言っていた。「第二次大戦の時、ナチスと戦っていたフランスのレジスタンス組織に盲目の隊員がいた。彼が任された仕事は、新人の教育だった。視覚を失った分、他の感覚は異常なまで発達していた。彼は驚くほどの正確さで、組織に向かない者を見つけ、ふるいにかけていった。あなたは、彼の生まれ変わりかもしれない」。
事件で右目を失ったという運命が、風間を教官としての道へと歩ませる。警察学校の教育が正しく機能していないのであれば、自分がふるいにかけるしかない。だって資質に欠ける者を警察官にするわけにはいかないのだから。
ちなみに「職務質問」の授業についてはSPドラマ版『教場』の最初の授業で教えている。市民に絡まれ制服を掴まれたら公務執行妨害で逮捕するとほとんど生徒が答えたが、風間は公務執行妨害を使うのは「やめておけ」と言っていた。
また、本作の雨の屋上シーンで遠野章宏(北村匠海)が十崎に職務質問する際、「ナイフを離しなさい」と言っていたが、『教場II』では「持っているものを決めつけると事態が悪化する」と教えている。具体的な名称ではなく「持っているもの」という一般的な言葉が出るようにしろと生徒に伝えていたのは、遠野の件があったからだろう。
このように、本作を見た後に改めてシリーズ全体を見返すといろいろと発見がありそうだ。
剣道の精神が教えてくれたこと
警察の不祥事もあり、十崎は釈放されてしまった。こちらの捜査も引き続き気になるが、あるだろう続編『教場III』で冷徹な教官・風間がまた見られると思うとゾクゾクする。それに伊上幸葉(堀田真由)が今後どう絡んでくるかも楽しみだ。
内心が語られないからこそ、何を考えているのかわからない不気味さと恐ろしさがあった風間公親。本作では彼の警察官人生が浮かび上がってきたことで、事情や内面を少し知ることができた。
剣道場で子供たちに伝えた「剣心一如」という言葉は、正しい剣の修行をすれば、正しい心を磨く結果となるという意味。何が正しくて、何が正しくないのか。風間は剣道を通して自分の正しさを探し続けてきた。
指導官室に掲げられた「一眼二足三胆四力」の書も、剣道を修行する過程において重要な事柄を述べた古人の教えだ。昔から剣の道は人の道に通じると言われている。重要なのは第一に相手を見る目、第二に足さばき、第三に動じない気持ち、第四に思い切った技を繰り出す身体能力を鍛えること。
これは木村拓哉が、幼少の頃からずっと剣道に打ち込んでいたことにもリンクする。本人も風間同様に、剣道を通してこの心得を自然と身に着けてきたのだろう。
敬礼の形の美しさはもちろん、所作の一つひとつが決まっていた風間。ストイックさを貫く姿勢は、言葉数は少なくとも木村拓哉本来の魅力を示すのに充分な役となった。
(文:綿貫大介)
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